アメリカでビジネスができる「E-2ビザ」を知っていますか?

アメリカには、様々な渡航目的に合わせて多くのビザが存在しています。これらの米国ビザは「移民ビザ」と「非移民ビザ」に分けることができます。アメリカに一時的に滞在し、ビジネスを行いたいというときには、現地でのビジネスが認められている非移民ビザを取得しなければなりません。そこで、本記事では投資額や取得までの期間などの面から注目されている「Eビザ」、その中でも特に「E-2ビザ」についての解説をしていきます。

Eビザとは?

「Eビザ」とは、各国の企業にアメリカへ進出してもらうことで、アメリカ経済を発展させることを目的に作られたビザです。
このビザは、米国と「通商航海友好条約」を締結している国の国民にのみ取得することが認められているビザです。この点、日本は米国と通商航海友好条約を締結していますので、日本国籍を有している方であれば問題ありません。締結国は現在53ヵ国あり、日本以外にはイギリスやオーストラリア、カナダ、韓国などが条約を締結しています。

いわゆる「就労ビザ」のひとつではありますが、他の就労ビザとは違い、現地の事業や雇用を拡大することを目的としている点に特徴があります。
言い換えると、アメリカ人の雇用を守ることはあっても、仕事を奪うことはないということです。このことから、Eビザには発給数の上限が定められていません。例えば、就労ビザの一つである「Hビザ(特殊技能者等)」は、たくさん発給しすぎるとアメリカ国民の仕事を奪ってしまう可能性があるため発給数に制限があります。

Eビザの対象となるビジネスは主に貿易と投資で、E-1ビザが貿易、E-2ビザが投資を対象としています。以下では、それぞれのビザの制度について解説していきます。

E-1ビザ

E-1ビザは、日本とアメリカの間で貿易をしたい人のためのビザです。
「貿易ビザ」または「貿易駐在員ビザ」と呼ばれることもあります。
E-1ビザを取得するためには、アメリカと条約を締結している国の国籍を保有していること、アメリカに対して一定程度の貿易を行っている実績があること、経営者など一定の地位にあることなどいくつかの取得要件があり、それらすべてを満たさないとビザは発給されません。

E-2ビザ

E-2ビザは、投資したアメリカの会社を発展させるために、自らアメリカへわたって指揮を執りたいと考える人が取得するべきビザです。
「投資ビザ」または「投資駐在員ビザ」と呼ばれることもあります。
E-1ビザと同様に、アメリカと条約を締結している国の国籍を保有していること、一定程度の投資を行っていることなどの取得要件があります。

上述の通り、アメリカ経済を発展させることを目的として作られた制度ですので、ここでいう「投資」はビジネスに関する投資である必要があり、また米国の経済に対して大きく貢献する規模の投資であることを求められます。といっても、明確な投資額に関する規定が存在するわけではなく、最低投資金額は20万ドルから30万ドル程度であるとされています。
居住義務がなく、仕事に必要な期間だけの滞在も認められるので、投資先企業の経営管理をしていれば、自由に各地を行き来できるという点も1つの特徴です。例えば、ニューヨークに本社を構え、自分はハワイで生活するといったこともできますし、仕事に必要な期間のみアメリカに滞在して残りは日本で過ごすということもできます。

また、「E-4ビザ」という同行する家族のための、家族用Eビザも用意されています。E-2ビザ申請者の家族はこのビザを取得することで、一緒にアメリカに入国し現地で生活できるようになります。ただし、E-4ビザを申請できるのは、E-2ビザ申請者の配偶者または21歳未満で未婚の子どもに限られます。また、E-2ビザとE-4ビザの取得を同時に行う場合には、14歳未満の子供を除く同行家族は大使館・領事館での面接に同席しなければなりません。
同行する子供は、このビザを保有していれば現地の学校に就学することも認められます。
なお、E-4ビザがなければ同行できないというわけではなく、主な渡米理由が観光や留学であるときはそれぞれB-2ビザ(観光ビザ)、F-1ビザ(学生ビザ)を取得する方法で問題ありません。
注意が必要なのは、同行家族には就労に関する制限が付されており、基本的に現地で働くことができないという点です。ただし、米国入国後に移民局から許可を得た配偶者は特別に就労することができます。この場合は、職種や仕事内容等への制限はなく、申請者の投資先企業以外で就労することも可能です。

E-2ビザを取得する流れ

続いて、実際にE-2ビザを申請する際の流れを解説していきます。
E-2ビザは、ビジネスに関わるビザですので、対象のビジネスに関する細かい要件を満たす必要があります。また、通商航海友好条約に基づくビザであることから、条約締結に関する要件も設定されています。以下では、まずE-2ビザを取得するために求められる要件について解説していきます。

E-2ビザの取得要件

E-2ビザ取得のためには、以下の7つの要件をすべて満たさなければなりません。

①条約締結国の国籍を有していること
投資家が自ら申請者となるときは、投資家の国籍が条約締結国のものであれば問題ありません。会社の役員などが申請者となるときは、その所属企業が条約締結国の国籍を持つものによって所有されている必要があります。たとえば、株式の50%以上が日本人によって所有されている会社(日系企業)に所属している場合には、この要件を満たしているということになります。

②投資家が投資先企業の重要な役職に就くこと
投資家が自ら申請者となるときは、米国現地法人を発展させるための重要な役職に就かなければなりません。投資家が米国現地法人の発展のため、有能な従業員を米国に送り込もうとする場合は、その従業員が役員や管理職など重要な地位に就いていること、もしくは高度な専門的知識を有していることが求められます。

この点、「役員」というためには、米国現地法人の運営に関して重要な意思決定をする権限を認められているような地位でなければならないとされています。肩書が「役員」であればこの要件を満たせるというわけではなく、実質的な役員としての権限が認められなければなりません。
また、「管理職」というためには、米国現地法人の重要な部門に関する責任を負っている地位でなければならないとされています。たとえ部下の監督を任されているとしても、企業のある部門の最終的な責任を負うような立場でなければ「管理職」には該当しません。
「高度な専門的知識」を有しているかどうかについては、申請者の学歴、保有している資格、技能の特殊性、経験年数などを総合的に考慮して判断されます。

③相当額の投資がされていること
E-2ビザの申請をする段階で、投資はすでに完了しているかその途中でなければなりません。上述の通り、最低投資額のような基準は存在せず、大使館・領事館の職員が、投資額が相当なものであるかどうかの判断をします。この点、大使館・領事館の職員が投資額の判断をする際は、銀行や分析官向けの資料などあらゆる資料を参照して判断するとされています。

④実態のある企業への投資であること
実態の存在する企業または事業に対して投資がされていなければなりません。ここにいう「実態のある企業」とは、営利を目的として事業を行おうとしている企業のことをいいます。したがって、実際に事業を行うための設備投資や運営資金としての投資がされている必要があります。いわゆる「見せ金」のような投資では、この要件を満たすことはできません。

⑤投資する自己資金が、米国でのビジネスの遂行の過程で損失を被るリスクを有するものであること
リスクを負わないような投資は、E-2ビザ申請においては「投資」と認められません。また、投資家本人が投資資金の主導権を握っている必要もあります。
どのような投資にリスクがあると認められるかですが、例えば、投機目的の投資や担保がある場合にしか貸し付けを行っていないような貸金業の運営などの場合は、「投資」には該当しません。

⑥米国経済に貢献する投資であること
E-2ビザは、米国経済の発展を目的として用意された制度ですので、米国経済の活性化に寄与するような投資をしなくてはなりません。例えば、申請者とその家族の生活費を賄えるといったレベルの投資ではこの要件を満たせず、生活費を大幅に上回るような収入が見込めなくてはなりません。また、金銭面以外での貢献も求められます。すなわち、現地のアメリカ国民に対して雇用の機会を与えるような投資が必要です。

⑦E-2ビザ資格が終了したあとは、米国を離れる意志があること
E-2ビザはあくまで移民ビザですので、定められた期間が満了した場合は速やかに米国から出国しなくてはなりません。

申請手順

続いて、E-2ビザ申請の手順について解説していきます。
E-2ビザの申請先は、在日米国大使館(東京)または在大阪・神戸米国総領事館です。
まず必要書類を提出し、書類審査を受けます。次に、大使館・領事館での面接を受け、特に問題がないと判断されれば無事にビザを取得できるという流れです。

なお、必要書類の提出から書類申請の完了まで1か月から2か月程度、面接日からビザの取得まで1週間程度かかります。また、必要書類の作成にも1ヵ月程度かかることが多いです。不測の事態に備えるためにも、余裕を持った申請を心がけましょう。

必要書類は以下のようなものです。ただし、事業の内容等によって必要になる種類は変わってきますので、あくまで一例です。

  • 6ヶ月以上有効なパスポート
  • オンライン申請書DS-160フォーム
  • E-サプリメントDS-156E
  • 5cm×5cmの証明写真1枚
  • 面接予約確認書
  • カバーレター
  • 組織図

※6ヶ月以上有効なパスポート以外に、過去10年で取得したパスポートがある場合はそれも提出します。
※「DS-160フォーム」とは、氏名や生年月日、渡航歴などの情報を記入するフォームのことです。オンラインのフォームになっていて、面接までに提出する必要があります。
※「カバーレター」とは、会社からの手紙のことです。申請企業、申請者の資格、同行家族の人数などを記載します。なおこのカバーレターは、企業の重要な役職にある人か弁護士が記入しなくてはなりません。

なお、E-2ビザ申請と同時に家族がE-4ビザを申請する場合は、上記の書類に加えて婚姻証明書、出生証明書などの書類も必要になります。

また、E-2ビザ申請を初めてする場合には申請の前提として、在日米国大使館(東京)または在大阪・神戸米国総領事館に対して「企業登録」という手続きを行わなければなりません。
米国ビザの申請サイトが用意されていますので、このサイトから申請者に関する情報や企業に関する情報などの必要書類・資料を提出します。その後、上記の大使館・総領事館でE-2ビザと企業登録両方に関する面接を受け、問題がなければ無事に企業登録が完了し、ビザも取得できるという流れです。
なお、一度企業登録をした企業にEビザ保有者が一人でも在籍していれば企業登録も存続しますが、Eビザ保有者がいなくなってしまった後は、もう一度企業登録を求められますので注意が必要です。

E-2ビザの注意点

この章ではE-2ビザに関する注意点をまとめました。申請をする際に注意点があるのはもちろんですが、E-2ビザを無事に取得してアメリカに渡ったあとも注意しなくてはならない点があります。

申請書類を英語で正確に

E-2ビザの申請書類はアメリカ大使館・領事館へ提出する書類ですので、すべて英語で書かなくてはなりません。住所や生年月日の記入方法も、英語の表記方法に従う必要があります。
また、記載内容に不備があれば申請を却下される可能性もありますので、正確な文書を提出しなければなりません。申請書類に記載するのは、申請者の経歴や渡航目的、取得要件を満たしていることの証明、有している高度な技術の証明など「いかに自分が米国経済の発展に寄与できるか」という点に関する事項です。

必要な設備投資を済ませておく

原則として、E-2ビザ申請の前提として、すでに投資したという実績が必要です。具体的には、現地に法人を設立し、法人口座に資本金を入金しておく必要があります。また、店舗の準備や設備の購入など、事業運営にかかわる投資も前もって済ませておくことも求められます。

ビザの有効期限とは

Eビザは最長で5年間の有効期限があります。ただし、有効期限が切れる際に、まだ渡航目的である投資先の企業や事業が継続していると認められた場合は、有効期限を延長することもできます。すなわち、渡航目的の事業が継続している間は半永久的に延長することができるということです。

滞在可能期間とは

ビザの有効期限は「アメリカに滞在できる期間」ではありません。有効期限は、取得したビザを使って入国審査を受けられる期間のことです。
一方、滞在期間は入国審査時に、審査官によって定められます。
1度目の入国時は、2年間の滞在を許されることが多いです。ただし、滞在期間が切れてしまいそうな場合は、1度アメリカを出国し、再度入国をすることで自動で期間が延長されます。つまり、実質的に滞在期間という概念が存在しないとも言えます。このことから、Eビザは「永住権にもっとも近い非移民ビザ」と言われることがあります。

ただし、ビザの有効期限切れには注意が必要です。滞在可能期間が残っているとしても、ビザは有効期限が切れる前に書き換えなくてはなりません。ビザの書き換えは在日米国大使館・領事館で行わなければなりません。すなわちビザの書き換えのために、日本に帰国する必要があるということです。

まとめ

本記事では、E-2ビザの概要や申請手順、注意しなくてはならない点について解説してきました。E-2ビザは、投資額や取得日数が他のビザよりも短いことから注目を受けているビザですが、手続きが簡単というわけではありません。米国でのビジネスの予定をビザのせいで乱されないよう、慎重に申請手続きを行いましょう。また、無事にE-2ビザを取得し、アメリカに渡った後であっても、注意点は存在します。特に、本記事で解説したビザの有効期限や滞在可能期間については勘違いされることがあります。オーバーステイや不法滞在に関わってくる問題ですので、細心の注意を払うようにしましょう。

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