アメリカには多くのビザが存在しており、渡航目的に合ったビザを取得しなければなりません。つまり、アメリカでビジネスをするためには、現地でのビジネスを認められているビザが必要になるということです。そこで、本記事ではまず米国ビザ一般についての解説をしたのちに、現地での就労が認められている「Eビザ」というビザに焦点を当てて解説していきます。Eビザの概要だけではなく、取得のために満たさなければならない要件や申請の流れ、さらに取得後に気を付けたいことについても解説をしています。
また、Eビザとよく似た用途で用いられることの多い「Lビザ」についても触れていますので、ぜひお役立てください。
移民ビザと非移民ビザ
アメリカには30種類以上のビザが存在しますが、大きく「移民ビザ」と「非移民ビザ」に分けることができます。
「移民ビザ」とは、文字通りアメリカへ移住する際に取得します。移民ビザ保有者は、アメリカ内での活動に制限が設けられておらず、自由に生活できます。
一方「非移民ビザ」とは、何らかの理由があってアメリカへ一時的に滞在したいときに取得する米国ビザです。90日以上の米国滞在を希望する米国国籍以外の全ての人は、非移民ビザを取得しなくてはなりません。「観光ビザ」や「就労ビザ」などがその例で、滞在目的以外の活動をすることは認められていません。
なお、非移民ビザを取得するためには、申請者の個人情報や渡航目的、米国での活動内容などを証明するための書類を、大使館・領事館に提出し、認証を受ける必要があります。また、一部の例外を除いて、大使館・領事館での面接も受けなくてはなりません。この面接の際には、以下の2点について納得してもらう必要があります。
- アメリカ以外に強いつながりがある居住地を持っていること
- アメリカに移住する意思が無いこと
非移民ビザの申請先は、在日米国大使館(東京)、在札幌米国総領事館、在大阪・神戸米国総領事館、在福岡米国領事館、在沖縄米国総領事館の5つです。
非移民ビザは米国での滞在目的に応じて多くの種類が用意されています。米国ビザ申請の際は、自分が米国で行いたい活動に応じたビザを申請しなければなりません。
非移民ビザの例としては以下のような種類があります。
非移民ビザ | 渡航目的 |
---|---|
B1ビザ | 観光や家族訪問などのため渡米する場合 |
B2ビザ | 商談、仕入れなど就労に当たらないビジネスをするために渡米する場合 |
E1ビザ | 米国との貿易を行うために渡米する場合 |
E2ビザ | 米国企業へ投資を行うために渡米する場合 |
Lビザ | 米国に所在する企業へ転勤する場合 |
Oビザ | 芸術やスポーツなどで優れた能力を有している人が渡米する場合 |
Pビザ | 芸術家やスポーツ選手などが特定の目的のために渡米する場合 |
Iビザ | 報道関係者などが特定の目的のために渡米する場合 |
Jビザ | 教授や学者などが特定の目的のために渡米する場合 |
Fビザ | 留学のために渡米する場合 |
Mビザ | 専門学校などへの留学のために渡米する場合 |
Eビザとは?
前章で、非移民ビザの種類について解説しました。アメリカでビジネスをしようとするときは、非移民ビザのなかでも現地での就労が認められているビザを取得しなければなりません。アメリカでビジネスをすることが認められているビザはいくつかありますが、本記事では「Eビザ」というビザに焦点を当てて解説をしていきます。
Eビザは米国への主な渡航目的がビジネスである場合に申請するビザです。
そして、Eビザは米国で行うビジネスの種類によって「E-1ビザ」と「E-2ビザ」に分けられています。
前者は、日本とアメリカとの間で貿易をしたいときに申請するビザです。単に「貿易ビザ」または「貿易駐在員ビザ」と呼ばれることもあります。
後者は、一定程度の投資をしたアメリカ国内の会社を発展させたいようなときに申請するビザです。単に「投資ビザ」または「投資駐在員ビザ」と呼ばれることもあります。
Eビザは「米国における事業や雇用の拡大に資する日本人に発給されるビザ」ということができます。アメリカ国民の仕事を奪う恐れがないので、ビザ発給数の制限が設けられていません。なお、Hビザ(特殊技能者等)などの就労ビザは、発給しすぎるとアメリカ国民の仕事を奪ってしまう可能性があることから、発給数に上限が設けられています。
なお、Eビザは、米国と「通商航海友好条約」を締結している国の国民でなければ取得することはできません。この点、日本は米国と通商航海友好条約を締結していますので、日本国籍を有している方であれば問題ありません。
また、Eビザを取得して渡米する人の家族のために、「E-4ビザ」が用意されています。
Eビザ申請者の家族はこのビザを取得することで、アメリカに同行することができます。
E-4ビザを申請できるのは、配偶者または21歳未満で未婚の子供です。
Eビザを取得した方の家族が現地の学校に入学しようとするときは、E-4ビザによることも、F-1ビザ(学生ビザ)によることもできます。
Eビザを申請するために
続いて、実際にEビザを申請する際の話に移ります。Eビザは、ビジネスに関わるビザであることから、対象のビジネスに関する要件が細かく設定されています。また、E-1ビザもE-2ビザも、どちらも通商航海友好条約に基づくビザであることから、条約締結に関する要件も満たさなくてはなりません。以下では、Eビザ(E-1ビザ・E-2ビザ)を取得するために求められる要件について解説していきます。
E-1ビザの取得要件
E-1ビザを取得するためには、以下の8つの要件をすべて満たさなければなりません。
なお、E-1ビザは「日米間の貿易を促進する者」を対象としています。渡航目的がこれに該当しないときは、他のビザの取得をするべきです。
①就労する企業の役員・管理職である、または企業の運営に必要な知識や技能を有している
E-1ビザを申請するためには、申請者が経営者や管理職、特殊技術者であることの証明が必要です。特殊技術については、就労先でその技術が必要である理由などについて説明することを求められる可能性もあります。
技術がそこまで高くないと評価されてしまうと、許可が下りない可能性もあります。
②申請者が米国との条約締結国(通商航海友好条約締結国)の国民である
上述の通り、日本は締結国です。締結国は現在53ヵ国あり、日本以外にはイギリスやオーストラリア、カナダ、韓国などが条約を締結しています。
③就労する企業が条約締結国である
申請者が条約締結国の国籍を有しているだけでなく、就労先の企業も条約締結国の国籍を有している必要があります。
④貿易の一方当事者は米国受入会社である
米国受入会社との貿易が既に進行中でなくてはこの要件を満たせません。また、この米国受入会社の50%以上を日本人が所有している必要もあります。
⑤対価を得て物品やサービスを提供する「貿易」をしている
ここでの「貿易」には、銀行業、保険業、運輸業、旅行業、通信業なども含むとされています。
⑥米国会社と日本との間には継続的に貿易が行われている
貿易に継続性がなければなりません。どれだけ大きな規模の貿易を行ったとしても、それが一度だけであればE-1ビザの対象とはされません。
⑦米国会社と日本との貿易が、米国会社の全貿易量の50%以上である
この要件における「全貿易量」の基準ですが、数量ベースで50%以上であれば良いとされています。
⑧E-1ビザを目的としたビジネスが終了した後、帰国する意思がある
これはE-1ビザに特有の要件というわけではなく、非移民ビザ一般の要件です。アメリカに移住したいわけではなく、ビジネスのために一時的に滞在したいだけであると示さなければなりません。
これらの条件を満たしている現地の企業を「Eビザカンパニー」あるいは「E-1カンパニー」と呼ぶことがあります。
E-2ビザの取得要件
E-1ビザを取得するためには、以下の8つの要件をすべて満たさなければなりません。
なお、E-2ビザは「米国で相当額の投資をした米国会社を発展させようとする者」を対象としています。渡航目的がこれに該当しないときは、他のビザの取得をするべきです。
①申請者が従業員の場合は、米国企業の役員・管理職である、あるいはその企業に必要不可欠な専門知識を有する職種に就く予定である
E-2ビザは投資家本人でなくても取得できる場合があります。その際は、重要な役職に就く者か、高度な知識・技術を持っていることが必要です。
②米国との条約国であり、企業および申請者が条約国の国籍である
E-1ビザと同様に申請者、受入企業ともに、通商航海友好条約締結国の国籍を有していなければなりません。
③投資家はその企業の促進、指揮する役職に就く予定である
この点、投資家は投資先の企業の資金とその用途の支配権を有していなければなりません。
④実態のある企業への投資である
実態がある投資であり、さらにその投資が有益なものであると証明しなくてはなりません。
⑤相当額の投資がされている
一定額の投資がされていなければなりません。明確な基準は公表されておらず、出資した会社の状況によって変動するとされています。
⑥投資がすでに行われている、あるいは投資過程である
投資に継続性が認められる必要があります。また、その投資は取り消し不可能なものであることも求められます。例えば、開発前の土地を所有しているだけの場合や用途の定まっていないお金を口座に入金しているだけの場合は、「投資」とは認められません。
なお、まだ投資が完了していない場合にも申請が認められるケースがありますが、その場合はすぐにでも米国でビジネスを開始できる状態にあることが必要です。
⑦投資する自己資金が、米国でのビジネスの遂行の過程で損失を被るリスクを有するものである
どのような投資にリスクがあると認められるかですが、例えば、担保がある場合にしか貸し付けを行っていないような貸金業などはリスクがないと判断されます。
⑧申請者はE-2としての資格が終了後、米国を離れる意志がある
この点もE-1ビザと同様に、非移民ビザ共通の要件です。
これらの条件を満たしている現地の企業を「Eビザカンパニー」あるいは「E-2カンパニー」と呼ぶことがあります。
Eビザ申請の流れ
Eビザは日本の企業と米国の企業が絡むため手続きは複雑ですが、すべての申請作業を日本国内で完結できるという特徴もあります。
Eビザを申請するためには、在日アメリカ大使館・領事館に対して必要書類を提出し、面接を受ける必要があります。必要書類に問題がなく、面接もパスできたら、無事にビザを取得できます。
なお、必要書類を送ってから面接までには1か月から2か月程度かかります。余裕を持った申請を心がけましょう。
必要書類は以下のようなものです。ただし、事業の内容等によって必要になる種類は変わってきますので、あくまで一例です。
- 6ヶ月以上有効なパスポート
- 非移民ビザ申請書 DS-156
- E-サプリメント DS-156E
- 証明写真1枚
- DS-157 (16歳以上のすべての申請者)
- サポーティング・ドキュメンツ
- ビザ申請料 ($100)
※「DS-156E」とは、米国受入企業についての情報を記すものです。業務形態や従業員の情報などを記入します。
※サポーティング・ドキュメンツとは、DS-156E に入力した情報を証明するための資料のことです。
サポーティング・ドキュメンツの例としては以下のようなものがあります。
ただし、あくまで一例です。
- 申請者が投資資金の出資者であり支配権を有することを証する書面
- 米国受入会社の存在を証する資料
- 米国受入会社と日本との貿易の状況を証する資料
- 米国投資に関する資料
- 米国受入会社が実体のある企業であることを証する資料
なお、Eビザの申請を初めてする場合には、米国受入企業の企業登録をしなくてはなりません。この点、Eビザ申請と企業登録は同時に行う必要がありますので注意してください。
一度企業登録をした企業にEビザ保有者が一人でも在籍していれば、企業登録も存続します。ただし、Eビザ保有者がいなくなってしまった後は、もう一度企業登録を求められますので注意が必要です。
Eビザの注意点
Eビザはあくまで非移民ビザであり、移住を認められたビザではありません。このことから様々な制限が課されています。この章では、Eビザを取得してアメリカに滞在する際に注意しなければならないことについての解説をします。
重要な従業員
投資家本人はEビザの取得要件を満たせていない場合であっても、一定の要件を満たせば従業員を米国受入会社に出向させることができます。この場合、以下の3つの要件を満たす必要があります。
①従業員の雇用主となる米国受入会社を、50%以上日本人が保有している
②出向する従業員が日本国籍を有している
③出向する従業員が米国受入会社の重要な役職に就く、または特殊な技能等を有している
有効期限
Eビザは最長で5年間の有効期限があります。また、有効期限が切れる際に、まだ渡航目的である貿易や投資が継続していると認められた場合は有効期限を延長することもできます。すなわち、渡航目的の事業が継続している間は半永久的に延長することができると言えます。
滞在可能期間
Eビザは入国審査官によって許された期間までしか滞在することはできません。1度目の入国時は、2年間の滞在を許されることが多いです。ただし、滞在期間が切れてしまいそうな場合は、1度アメリカを出国し、再度入国をすることで自動で期間が延長されます。つまり、実質的に滞在期間という概念が存在しないとも言えます。このことから、Eビザは「永住権にもっとも近い非移民ビザ」と言われることがあります。
ただし、ビザの有効期限切れには注意が必要です。滞在可能期間が残っているとしても、ビザは有効期限が切れる前に書き換えなくてはなりません。ビザの書き換えは在日米国大使館・領事館で行わなければなりません。すなわちビザの書き換えのために、日本に帰国する必要があるということです。
家族の就労制限
E-4ビザを取得してアメリカへ同行した家族は、基本的に現地での就労が認められません。ただし、米国入国後に移民局から許可を得た場合は働くことができます。許可を得た場合は、職種や仕事の内容等への制限はなく、自由に就労することが認められます。
アメリカでビジネスができるその他のビザ
アメリカでビジネスを行いたいと考えている人が取得を検討するビザとして、Eビザのほかに「Lビザ」というものがあります。そこで、この章ではLビザの概要、EビザとLビザの違いについて解説していきます。
Lビザとは?
Lビザとは、企業の管理者や高度な知識を持つ人などが、関連企業内で転勤する際に取得するビザです。
転勤する人が企業の管理者等であるときは「L-1Aビザ」、転勤する人が高度な知識を持つ人であるときは「L-1Bビザ」を取得します。申請する人の特性に着目して、前者を「企業内転勤者ビザ」後者を「企業内特殊技能職ビザ」と呼ぶことがあります。
EビザとLビザの違い
日本の企業が米国進出を検討している場合、Eビザを取得するべきか、Lビザを取得するべきか悩んでしまうかもしれません。また、米国企業へ日本人を出向させようとする場合に、その日本人がどちらのビザの取得要件も満たしているというケースもあり得ます。そこでこの章では、それぞれ違いに焦点を当てて解説していきます。
両者の最も大きな違いとしては、Eビザは半永久的に滞在可能期間を延長することができますが、Lビザは最長でも7年までしか滞在できないという点です。
また、Eビザは日本の企業での勤務実績がなくても、ビザを取得することが可能です。一方、Lビザは日本の親会社で1年以上の勤務実績が求められます。
移民局の審査の要否にも違いがあります。Eビザの申請は、移民局による審査を必要とせず、在日米国大使館・領事館に申請するだけで取得できるようになっています。一方、Lビザは移民局による審査を受け、許可が下りたのちに、大使館・領事館に申請をします。このことから、ビザ取得にかかる時間はEビザの方が少なく済みます。
まとめ
本記事はいかがだったでしょうか。Eビザは企業に関わるビザであるため、要件が複雑であり、多くの必要書類を提出しなければなりません。また、重要な従業員を出向させる際の要件やビザの書き換えなど注意点も存在します。本記事で解説したことに注意して、Eビザの取得を成功させてください。